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食品ロスの発生メカニズム① 

 

[過剰性を伴う品揃え戦略の分析方法]

 

 

品揃え戦略とは、ある販売目的のために店舗が品揃えの水準を決定し、販売量の不確実性のもとで仕入れ(製造)量をコントロールする手段です。つまり、過剰な品揃えによって商品が売れ残るときに発生する「廃棄コスト」と、需要に対して過少な品揃えをして商品が品切れになるときに発生する「品切れコスト」のトレードオフの関係の中で、総収益を最大化するような品揃えを実行するためのものです。ここでは惣菜やパンなどを店内で製造から販売までを行う業態を想定し、供給に量的な制限は無く、仕入ロットの変化に伴う材料費の変動もないことを前提とします。また、品切れだからといって他商品に切り替えるという商品間の代替性はないものとし、1種類の商品のみの単純なモデルを示すことにします。

 

 

最適な品揃え数量は、1個の追加的な品揃えをして売れなかったときに負担する限界期待廃棄コスト(C1:腐敗性の少ない製品では在庫費用となります)と、その1個を追加しなかったときに発生する限界期待品切れコスト(C2)とが等しくなる限界条件で決定します。

ちなみに、「期待」というのは、ある一定の確率(確率密度関数というもので表されます)によって変動しうるということを意味しています。つまり、どれだけ品切れになるか、または、余って廃棄されるかは、実際に売ってみないと分からないということです。

また、「限界」というのは、とりあえず一個追加しただけで最適ではなくなるギリギリの個数というように理解しておいてください。

 

 

さて、ある1日の品揃えがW個のとき最後の1個が売れ残る確率をP(W)としたとき、次の式が成立します。

 

C2(1-P(W))=C1 P(W)・・・・・・(1)

 

この最適条件は以下のように展開されます。

 

P(W)=C2 / (C1+C2)

 

Wは離散変数(1個、2個という連続しない変数)であるため最適品揃え個数を求めるモデルは以下のように書き改められます。

 

 

P(W-1)<C2   /  (C1+C2)≦ P(W)

 

 

ところで、廃棄コスト等を考慮した広義的な期待利益を最大化するには、品切れを防いだときに回避される限界期待機会費用C2(1-P(W))から、発生する限界期待廃棄コストC1 P(W)を引いた限界期待値がゼロ、つまり次式が成立しなければなりません。 

C2(1-P(W))-C1 P(W)=0

 

これは(1)式と整合的ですので、期待利益を最大化する行動においては、C2が相対的に増加すればするほど、期待総廃棄個数は増加することが示されたことになります。

ここで、腐敗性を持つ食品の品揃えを考察する場合、その特徴を踏まえる必要があります。一般に、外食などの原価率は30%が目安とされることがあります。個人店や回転寿司ではもっと高いですし、ファーストフードなどではもっと安いこともしばしばです。何れにしても、品切れコストを単純に(定価-原価)とすると、販売価格の70%にも達するのです。その他にも考えられるコストを整理すると下表のようになります。

​表:品揃えに関するコスト

​​廃棄(C1)には、「廃棄商品の材料費」、「廃棄処理費用」、「製造労務費」などが含まれます。後者の2つは、後述するように固定費となることが多いため、品揃え戦略上無視されることが多いです。つまり、どれだけ捨てようが、コストは変わらないということです。

しかし、品切れコスト(C2)は違います。「追加注文のコスト」は、品切れになった場合、顧客を待たせて注文に応えるときに発生するコストですので、顧客を長時間待たせたりして二度とお店に来なく成るというリスクがあります。蛇足ですが、場合によっては顧客を待たせ、わざと行列を作らせることで顧客の関心を集めるという戦略もありますね。このとき追加注文のコストは、マイナスの符号としておけば問題ないでしょう。

 

「販売機会の喪失による損失」は、品揃えがなされていれば販売できたであろう商品から得られる利益を失うことです。先述の「70%」に当たる部分です。ここで大事なことは、需要喚起に失敗したことによる損失も含まれるということです。つまり、過剰な品揃えにより「商品が溢れているイメージ」を演出すると、需要を喚起できる可能性があるからです。食品販売においては、顧客はあらかじめ何を何個買うかあいまいなままで来店することが多く(マーケティング用語で、最寄品といいます。反対に、車や家電などスペックを良く調べてかう商品は買い回り品といいます)、本来購入予定であった商品の隣にあるものも、つられて購入することがよくありあます。このため、陳列を工夫しショーケースや照明などを用いた演出を補完するものとして過剰な「品揃え」がなされることになり、完売できなければ廃棄されます。しかし、その過剰性がなければ誘発されなかったであろう「ついで買い」は、機会ロスという形で品切れコストとして計算されます。

ただし、スーパーなどで、個数や時間を限定し卵などの主力商品を赤字覚悟の「超低価格」で販売することがありますが、このような場合には売り切れたほうが良いことがあります。理由は簡単で、安すぎて売れば売るほど赤字が膨らむからです。限定〇〇個という「売り切り」販売をするケースではその可能性があります(生鮮食品などは本当に仕入れ数量が限られていることも多いですが)。私は某スーパーで卵1パック3円というものをみたことがあります(しかもほぼ毎週)。狙いは、「売り切れる前に買い物に行こう」という強烈な集客効果と「ついで買い」であり、かつ、赤字なので品切れコストはマイナスとなります。

 

「顧客喪失による損失」は、顧客が品切れを嫌って来店しなくなったり他の店舗に奪われたりすることで発生します。CVSなどのオーバーストアが問題になっていますが、他店舗に顧客を奪われることによる損失を回避しようとするため、どの店舗も品揃えは過剰となる傾向があるといって良いでしょう。現在では、セブン-イレブンなどの本部は、期限切れ直前の値下げによる見切り販売を認めており、ある調査ではロスが減り、しかも買い控えも発生していないという報告もあります。ちなみにこのような販売方法をレベニューマネジメント(イールドマネジメント)といいますが、価格破壊にならない範囲であれば、評価されるべき食品ロスマネジメントの方法だと思います。

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