top of page

食品ロスの発生メカニズム⑥

[行動変容を促すナッジングの可能性]

  食べものを捨てたり食べ残したりしないように、人々が望ましい行動をとるように介入する政策を検討する際、これまでは経済インセンティブを用いるか、規制するかのほとんど2択だったとみられます(定量的に把握していません)。しかし、これは顕在化された意識下でのみ、行動変容が期待できるもの、つまり多くが認知-反応モデルを基礎としていると言えると思います。しかし、食品ロスの発生は、無意識な行動によることも少なくないため、従来の認知モデルでは、対策が高コストになりがちで、行動する方も心理的な負担も大きく長続きしないことが多いです。また、ときには大きな反発を招いたりして逆効果になるリスクすらあります。

 

  はみ出さないようにする男性トイレの「的」や、ドアノブをスマホ置きにして置き忘れを防ぐような、ナッジ(Nudge、Nudging:そっと後押しする)等の行動科学をベースとした介入方法は、一見地味で小さな取り組みにみえますが、対象者の行動を「反対を向かせる」のではなく、いわば「寄り道」させるような、無理のない介入によりスムーズに政策目標を実現する可能性を秘めています。もちろん、無意識であるがゆえに、洗脳状態に陥れたり、公共セクターが思いのままに市民を操って主体的に反論する力を失わせかねないという批判もあります。しかし手法を公開しながら合意形成を図れば、社会的便益を実現させる目的のための手段として政策オプションが増えることになります。

 

  以下では、筆者も参加した消費者庁(2023)『諸外国におけるナッジ理論を活用した食品ロス削減の取組調査業務』より、極力市民に負担をかけないような行動変容を促す介入の方法がまとまっています。多くはケーススタディが占めるため、条件が異なれば当然その再現性は落ちるし、中にはアイデアだけで仮説の域を出ていないものものあります。引用元からリサーチデザインの内容を参照し、Try&Errorで独自の介入方法になるようモデファイしながら独自の介入方法を模索し、成功事例が(モデファイ前提で)横展開されることが望まれます。

 

 

  1.  愛知県立大学大学院情報研究科 宇都宮陽一博士、奥田隆史教授: スマートフォンを用いて賞味期限に応じた価格提示を行う(ダイナミックプライシング)シミュレーション  → 細かく価格を変動させ過剰な食料の需要喚起を行う

  2. 特別区長会調査研究機構大正大学 地域創生学部 地域創生学科 岡山朋子教授:冷蔵庫の中でのナッジ介入→ 冷蔵庫の中の仕切りや容器により、在庫管理を容易にする

  3. 横浜市資源循環局:ライス量選択の必須化+メニュー表に量を表示することによる量の可視化 → 量的な選択可能性の導入

  4. 横浜市資源循環局:完食した子供を対象とした表彰及びお菓子のつかみ取りイベントの実施 → 完食させる高揚儀礼、インセンティブ

  5. 横浜市資源循環局:食べきりをテーマに食の大切さを伝えるためのマンガイラストと内容に関連したピックの活用 → 理解しやすい表現によるコミュニケーション

  6. 横浜市資源循環局:洋食でのパン提供時のオペレーションの変更 → 前菜のパンを、少量ずつ配布

  7. Christina Gravert / Swedish Food Agency:スーパーマーケットで商品を単体で売るかまとめて売るか → まとめて売る(バンドル)と、ロスも減るが売り上げも減る

  8. Christina Gravert / Swedish Food Agency:スーパーマーケットで商品に「全部食べられる人だけ購入してください」というメッセージを記載する → 食べられる分だけ売ろうとすると、ロスも減るが売り上げも減る

  9. Christina Gravert / Swedish Food Agency:スーパーマーケットで商品を売る時にディスカウント価格を大きく表示する → 安売りのPOPを大きくすると、なぜか売り上げが減る。購入時に値段という判断基準を考えさせてしまうからと考察。食品ロスも減る。

  10. Kerstin Oberprieler:ナッジとゲーミフィケーション → ゲームの要素を入れることは効果的かもしれない(実験無し)

  11. SRH Berlin University of Applied Sciences,Modul University Vienna:ホテルのダイニングで文字と絵で食品ロスの問題意識を伝える → 三角POPを使った消費者とのコミュニケーション

  12. The University of Illinois at Urbana–Champaign:リンゴを丸ごと提供する場合とスライスで提供する場合の比較 → リンゴをスライスすると消費量が増える(食品ロスが減るかどうかまでは言及無し)

  13. The University of Illinois at Urbana–Champaign,Purdue University:学校のランチタイムを長くすることで食べ残しがどれだけ削減できるかの実験 → 10分から20分に延長すると特にフルーツと野菜の食べ残しが減る。

  14. The University of Illinois at Urbana–Champaign, Purdue University:学校給食でサラダを先に出す → サラダ(ブロッコリー)を先に出すと、食べ残しが減る

  15. The University of Illinois at Urbana–Champaign:皿のサイズと形状を変えることで食べ残しを削減する → 皿をわずかに小さくしただけで、食べ残しが減る

  16. Winnow Solutions:重量計測、カメラ、センサー、AIを組み合わせて食品廃棄の量と内容を調理スタッフに知らせる技術 → restaurantの自動計量とその見える化技術

  17. 株式会社セブン&アイ・フードシステムズ、ロイヤルホールディングス株式会社    飲食店における食品ロスに関する配布物を用いた訴求と環境省推奨ドギーバッグ(mottECO)の導入による食品ロス削減 → ポスター、タブレット端末等による告知

  18. Department of Energy and Technology, Swedish University of Agricultural Science(Christopher Malefors, Niina Sundin, Malou Tromp, Mattias Eriksson)    学校食堂における食品廃棄トラッカー(Plate waste tracker)による意識づけ → 計測器(トラッカー)による廃棄量の把握と画面表示

  19. Department of Energy and Technology, Swedish University of Agricultural Science(Christopher Malefors, Niina Sundin, Malou Tromp, Mattias Eriksson): Tasting spoons (味見スプーン)を使った味の不一致による食品ロス削減→ 給食の配膳時に味見をさせると22%食べ残しが減る

  20. Edinburgh university of technology: 学生寮における多機能ゴミ箱:Grumpy BinとInstagramを活用した食品ロス削減の習慣化促進 → センサー付きのごみ箱で何時誰がどのくらい食べ物を捨てたのかスマホでメンバー全員に告知

  21. Giulia Berardinetti: ユーモラスラベルを用いた形のいびつな食材の購買促進と食品ロス削減 → ブサイクなりんご、というようなユーモアのあるラベルにより規格外果実が売れるようになる

  22. Giulia De Chirico【Young Lions Competitions】    食べ残し削減を訴求する2/3 campaignパッケージ →青いデザインで廃棄される2/3という量をゲージ(棒グラフ)のように色付けするパッケージ

  23. Innoscentia: スマートフォンを用いて、リアルタイムで生肉の品質をトラックすることができるEラベル → 揮発性有機化合物( VOC )を感知し色が変わるラベル

  24. KLS Pureprint A/S: 組み立て式ドギーバッグ TreatBox🄬 ドギーバッグバージョン2.0 → テーブル上に縦置きできる、紙製の折り畳みドギーバッグ。紙ナフキンのように顧客は自由に使える

  25. MARCELO SZPIGEL DZIALOSZYNSKI【Cannes Future Lions】    期限によって色が変化するラベル: Anti Waste Label→ 

  26. Mimica: 触れて消費期限を確認することができるmimica touchラベル → 棒状の金銀ナノ粒子を用いて、時間に応じて色が変わる

  27. OzHarvest: 賞味期限間近食材専用テープUSE IT UP tape(使い切りテープ)を用いた、家庭における食品ロス削減 → 食べ忘れないように貼るシール

  28. Piero Roncall【Young Lions Competitions】The waste Guide Bag → エコバッグに1人分~数人分の買い物量の目安(メモリ)が書いてある

  29. SPAR: Spar Natural Bulk Display (包装なしコンテナ)によるプラスチック廃棄削減 → ガラス容器や紙パックを使った量り売り

  30. Too Good To Go、Department for the Environment、Food and Rural Affairs(DEFRA)、the Waste and Resources Action Programme (WRAP): 腐敗臭を確認できるSMELL-BYラベル →消費者はラベルの臭いと 食材 の匂いを比較 し、腐敗しているか否かを判断

  31. Too Good To Go「Often Good After(期限後も大丈夫な時がある)」ラベルでの啓発による食品ロス削減 →賞味期限は食べられなくなる期限ではない、という表示

  32. Too Good To Go 賞味期限ラベルLook,Smell,Taste,Don’t Wasteキャンペーンによる食品ロス削減訴求 → 見て、匂って、味見するというデザイン

  33. Too Good To Go、Spar: 賞味期限間近商品を詰めたMagic Bagによる食品ロス削減 → 消費者が選べないが、お得感のある食品セットでサプライズを演出

  34. Too Good To Go、Greene King: GREENE KING MAGIC PINTS BAG リサイクル可能な液体対応ドギーバッグ → ビールなどの飲料やスープ類にも使用可能

  35. Wageningen University&Research: JUMBOスーパーマーケットにおける、廃棄予定食材から製造された商品(VIV)の特別コーナーと食品ロス情報・削減モニター導入による食品ロス削減 →モニターよりリアルな棚のほうが販売力がある

出典: 令和 4 年度消費者庁請負調査『諸外国におけるナッジ理論を活用した食品ロス削減の取組調査業務最終報告書』 (全文)(概要版

bottom of page