Food Supply Chains & Food Loss and Waste
食品サプライチェーン&食品ロス研究(日本女子大学小林富雄ウェブサイト / Website by Kobayashi, Tomio)
Research on Sustainable Food Chain
【新刊】
2023年2月15日発売:小林富雄『食品ロスの経済学 第4版』農林統計出版(正誤表)
2022年6月10日発売:小林富雄『食品ロスはなぜ減らないの?』岩波書店
"The Economics of Food Loss and Waste" available on Amazon eBooks, 2022
食品ロスの発生メカニズム ④
[食品寄付/フードシェアリングと交換]
近年、国内でも取り組みが活発になっているフードバンクは、1967年にアメリカで始まり、1980年にはフランス、1990年ごろには韓国、オーストラリアと世界中に伝播しました。またビジネス分野では、SDGsが採択された2015年以降、スマートフォンの普及とともに過剰食料のニーズを掘り起こすマッチングアプリが普及しています。
以下では、過剰な食品の寄付や、過剰な価格調整(Price adjustment)による販売、つまり再生産価格を超えるマークダウン(Mark Down)による食品需給調整のことをフードシェアリングとして、それらの行動原理を解説したいと思います。なお、シェアリング(Sharing)には共有とか分配なども含意するので、より正確にはダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とか不等価交換(nonequivalent exchange)と表現したほうがしっくりくるかもしれません。(参考:Wikipedia「等価交換」)
先ず、寄付を中心とする非市場での食料配分は、市場での等価交換(equivalent exchange)では自立的に持続可能なサプライチェーンを構築し得ない、という暗黙の共通認識があります。しかし、その非市場でのサプライチェーン構築には、多様な側面があります(下図)。
資料:Kobayashi, T., Kularatne, J., Taneichi, Y., Aihara, N.(2018)Analysis of Food Bank implementation as Formal Care Assistance in Korea, British Food Journal, Vol. 120, Issue 01, pp. 182-195
中央部の2つには、寄付という言葉は使わずに贈与交換「Gift Exchange」という概念を拝借しました。これは文化人類学が研究対象とする物々交換を説明するときなどにしばしば使われる概念です。義務的(Obligated)なものは税金や罪に対する罰金、自主的なもの(Willingly)はバレンタインとホワイトデーなどが分かりやすいと思いますが、そこに不等価性が現れます。税金を投入する生活保護は、限られた予算総額から一律に金額が決まるという点で、社会が期待する保護金額と相違が生まれます。バレンタインの返礼としてのホワイトデーも、等価である義務はありません。等価を目指そうとするものの、市場での交換に比べると不等価になってしまうのが贈与交換の本質です。
左端は純粋贈与(Pure Gift)、つまり寄付(Donation)としました。しかしこれは実現性の乏しい概念です。なぜなら、一方的に与え続けるとその主体はただ窮乏してゆくのみで、一時的にはできても持続しないからです。他で収奪したものを純粋贈与と見せかけることもあるかもしれません。日本の寄付文化が併せ持つフィランソロピー(利他行動)を強いる社会は、持続不可能なことを要求する側面も看過できません(もちろん、収奪したものの社会還元を要請する側面もあります)。
フードバンクやフードシェアリングを分析するフレームワークには、このように、社会は何らかの交換体系のもとで成立している、という前提を置いて議論を進めることが可能です。寄付は相手のためでもありますが、人助けは自分のためにやるもの。情けは人の為ならず、かもしれない。Nathalie Sarthou Lajus (2012)『借りの哲学』ではそれを「全体的給付体系」と呼んでいます。不等価交換は「借り」を生み、その返礼を繰り返すことで社会の結びつきが強くなっていくということです。
さて、下記は韓国のフードバンクへの食品寄付量の推移を金額ベースで示したものです。韓国では、社会福祉協議会が国のフードバンク政策の受け皿(農業政策に対する農協のようなもの)になっています。ものすごいスピードで食品寄付が増えましたが、これはフランスの仕組みをよく学んで取り入れたからだと聞いています。フランスはアメリカほど寄付がさほど盛んではないなかでフードバンクが普及したため、そこに学んだのでしょう。
しかし、急速に普及したもう1つの理由として、行政主導のいわば強制力が働いている可能性があります。フードバンクへの食品寄付は、感謝されたり受益者が社会復帰することを想像するだけでも、ドナーにとっても大変幸せな行為となり得ます。しかし韓国の場合は、手薄な社会保障政策とアジア金融危機による失業率の悪化などを背景に、強制的になっても食品寄付普及のスピードを重視せざるを得なかったのかもしれません。
資料:Kobayashi, T., Kularatne, J., Taneichi, Y., Aihara, N.(2018)Analysis of Food Bank implementation as Formal Care Assistance in Korea, British Food Journal, Vol. 120, Issue 01, pp. 182-195
(執筆中)