Food Supply Chains & Food Loss and Waste
食品サプライチェーン&食品ロス研究(日本女子大学小林富雄ウェブサイト / Website by Kobayashi, Tomio)
Research on Sustainable Food Chain
【新刊】
2023年2月15日発売:小林富雄『食品ロスの経済学 第4版』農林統計出版(正誤表)
2022年6月10日発売:小林富雄『食品ロスはなぜ減らないの?』岩波書店
"The Economics of Food Loss and Waste" available on Amazon eBooks, 2022
食品ロスの発生メカニズム⑤
[突発的な過剰性に対する質的調整]
2020年以降のコロナ禍にともなうCOVID-19対策において、いわゆる「三密」を回避する取り組みがサプライチェーンの需給調整に多大な影響を与えています。執筆時点(2020年10月)では将来のフードサプライチェーン(FSC)のあり方について予断を許さない状態が続いており、日本だけでなく世界中でGoToキャンペーンのような従来型のFSCを維持する取り組みも行われています。しかし、ポストコロナ(ウィズコロナ)時代のFSCはどのような姿を目指すべきなのでしょうか?
以下では、COVID-19対策の食品スーパーにおけるケーススタディからその展望を描いてみたいとおもいます。方法としては、日本の非常事態宣言下の時期である2020年上半期くらいを念頭に、危機的な状況下で発生する食品ロスを「突発的過剰性」と定義して、特売(Hi₋Low Pricing)の自粛にスポットを当てながら「三密」回避策、つまり来店客数の平準化を評価したいと思います。
FSCの危機的状況は、2011年の東日本大震災にも発生しました。しかし、これまでの研究アプローチは食料不足、つまり「過少性」ばかりにスポットがあたっていました。確かに地震や津波による農地や設備の破壊による生産量の低下はみられました。しかし、国内全体でみれば「サプライチェーン機能が一部欠損し、食料の地域的偏在や一部食料の一時的な不足等が発生した」というほうがより正確です(平成26年度農林水産省:緊急時に備えた食料の安定供給対策推進事業「食品産業事業者における緊急時に備えた取組事例集」)。つまり食料の絶対量は足りているが、道路が寸断されたり、様々な社会事情により、過剰性と希少性が同時発生した、ということなのです。
下の写真は、被災地のスーパー様よりご提供いただいた、大変貴重な震災当日の店内写真です。これらの食品は加工品を中心にまだ食べられるものが大半です。翌日販売すれば地域住民の方々に食品提供できるはずでしたが、それは叶いませんでした。当時の担当者へのヒアリングによると、行政指導により「非常事態であり、混乱を招くため販売を中止してほしい」という要請があったそうです。現在このスーパーは廃業してしまいましたが、大変残念なことです。また、寄付食品が全国から被災地に送られましたが、カップラーメンなどに偏っていたため「毎日たべられない」など多くの食品が余ってしまったこともありました。
行政指導の成否についてここで検討することはできませんが、食品が過剰性を有する状況で非常事態が発生した場合における需給マッチングに多くの課題があることは間違いありません。
資料:宮城県亘理郡山元町小売店様よりご提供
2020年に世界中で対応に追われたコロナ禍においても、需給マッチングの課題が露呈しました。しかし、食料生産が直接的に影響を受けたわけではなく、これは完全に食料の地域的偏在の問題でした。これは、数量調整や価格調整というよりは、販売方法の変化や販路の変更による需給調整を迫るものであり、ここではそのことを「質的調整」と定義可能です。物理的には同等だが、パッケージや加工、輸送などの調整を通じてニーズに合わせて売り切っていく、まさにマーケティング的アプローチが質的調整といえます。
質的調整には寄付も含まれますが、フードバンク活動は本質的に有事でこそ高い機動力を発揮し、非常事態であっても特に初動ではフードサプライチェーンを機能させる原動力となり得ます。